「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の
支援に関する法律施行令の一部を改正する政令案」に対する意見
警察庁長官 露木康浩 様
「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の
支援に関する法律施行令の一部を改正する政令案」に対する意見
2024年5月22日
一般社団法人犯罪被害補償を求める会
代表理事 藤本 護
掲題の件に関し私どもの「会」としての意見を提出します。
1,犯罪被害者等給付金について
私ども犯罪被害補償を求める会は、数次にわたり政府に対し、犯罪被害者等給付金においては自動車事故の「自賠責政府保障事業」による補償と同等の慰謝料、逸失利益補償を含む抜本的な改善を求めてきました。
今回の改正においては警察庁所管の給付金部分に関しては、自賠責補償を意識して、あまりにも不十分な現行給付制度の手直しが行われたことは認め評価します。しかし、原案である自由民主党司法制度調査会提言の前文に述べられた「基本理念」や、「被害者等からの声」に見られる犯罪被害者についての現状認識に照らして、今回の「算定方法の見直し」では十分ではありません。特に前途を嘱望される学生・単身者や、現在は幼少であっても、「民法の規定に基づき、将来、両親等に負うべき扶養義務が履行されなくなること等を踏まえた」ものとしては、被害者等の要望とは隔たりがあると言わざるを得ません。
2021年12月17日の大阪西梅田、こころとからだのクリニック大量放火殺人事件に際して、私どもが国家公安委員長に提出した要望書で述べましたように、現在は多くの企業で、かつての日雇い労働者と同義の非正規労働者や、派遣労働者が多数を占めており雇用は不安定である上、労働環境等のために病気になりやむを得ず退職している者も多く「労働基準法上での労働者」でなく「無職者」として事件に遭遇するものが多いのです。これらの人たちにとって、損害を償うべき加害者が死亡した場合、残された家族には犯罪被害給付金が唯一の生活の支えとなるものであり、今回の改正では不十分と言わざるを得ません。具体的には、例えば幼少の子供のある年収600万円であった被害者が、疾病等のため一年以上離職して配偶者の収入で生活をしていた場合、事件発生時(死亡時)に収入ゼロで生計維持関係が認められないことになれば、今回の改正で給付基礎額は最低額が上がって加算額が認められることになった一方、倍数が1000のため、通常時の被害者の収入で生活していた実態とはかけ離れた支給額(1060万円)となります。また、兄弟姉妹で支え合って生活していた場合で、家計を支えていた兄姉が死亡した場合、4200円の加算が認められない結果、給付額が低くなります。つまり、生活実態と乖離した給付額となり、不十分なのです。私どもとしては、被害者の生活実態に即した基礎額、加算額、倍数の設定が必要と考えます。
また、私どもは、過去の被害者についても遡って、給付金の支給を求めてきました。2004年には犯罪被害者等基本法が制定され、犯罪被害者等が、被害を受けた時から再び平穏な生活を営むことができるまでの間、必要な支援等を途切れなく受けられるよう定められたのであり、そのためには国の制度である給付金が主柱にならなければならないにもかかわらず、改正以前の被害者には遡及されず、基本法は事実上空文のまま今日に至っています。
今回の改正において、現行の基礎額では不十分と有識者の意見をいれた改正がされるということは、今までの政府の対処にノー(改めるべし)の意見が出されたのです。政府として、今までの姿勢を改め、加給分だけでも遡及適用を求めたいと思います(引き続きの検討を申し入れます)。
私どもは、親族間犯罪における大幅な不支給・減額規定などを改め、「不支給・減額を原則とした『国家公安委員会規則第6号』でなく」、原則支給である給付金支給法に基づいて、不支給・減額は極めて例外な場合(例えば、子どもが親を殺害し、加害者である子どもが受給者となる場合など)に限るよう求めています。すでにこの件については、平成27年の自由民主党政務調査会の提言でも、改正を目指し早急な検討が言われているものであります。今回の有識者会議において不支給・減額規定についてのこの平成27年の提案を反映するようとの私どもの要請にもかかわらず、これらの規定についての検討さえもなかったことにも極めて不満であります。
2,閣議決定で、その他の府省庁の関与が言われているにもかかわらず、私どもが強く要請している他省庁の関与に係わる①損害賠償命令制度に係わる、立替払いと加害者への求償制度の創設。②先進諸外国が制度化している犯罪被害者の支援に特化した、犯罪被害者庁(仮称)の検討が十分になされていないことにも大きな不満を持ちます。
内閣総理大臣が決意を示して、閣議決定されたにもかかわらず、私ども、犯罪被害者の切実な要望のすべてを取り上げて頂けなかったことについて、改めて不満の意を表明し、今回の改正にとどまることなく、引き続いての本気の支援制度の実現を求めます。
以上